integral:三浦綾子資料室

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積木の箱:トキ/佐々林トキ

佐々林豪一の妻。一郎と緑の母。豪一の愛人である奈美恵と同居している。奈美恵を同居させていることについて、一郎は疑問を抱くものの、「少年らしい単純さ」で母は何も知らないのではないかとした上で、「父は何という野ばんな、冷酷な人間かと思わずにはいられなかった」。

一郎は「母だって、婦人会だとか、委員会だとかいって、外にばかり出てるじゃないか」と思う。また、外出したばかりだと言うことは敬子の「奥さんという人は、よく出歩くらしいわね。あちこち婦人会とか、お茶の会とか、謡の会だとかいって……」でもわかる。みどりは、一郎に佐々林家について次のように語る。「そうね。申し分のない家じゃないの。おとうさんやおかあさんは、外にばかり出ているけれど、別に仲が悪いというわけじゃないし(後略)」(暗い部屋)。トキが出歩く理由は後述のとおり、豪一と奈美恵の関係にある。

一郎の級友たちの父兄は懇談の際「トキは年に一、二度しか学校に来ない。しかし各種の婦人団体で活躍しており、有名な佐々林豪一の妻であるから、その顔を知らぬ者はほとんどなかった」(視線)とある。

 十二年前、流産で入院したトキが退院してくると、奈美恵が家に入りこんでいた。その時みどりは五歳、一郎は三歳だった。トキは、奈美恵を外に囲って欲しいと言ったが聞き入れられなかった。トキは次第に諦め、「全力をあげ、奈美恵が豪一の妾であることをひたかくしにかくし、よそ目には真実の娘であるかのようによそおった。トキにとって我慢がならないのは、自分が同じ屋根の下にいる小娘に夫を寝取られるような愚かな女だと、他人に思われることであった」。以来妻妾同居状態である。

 冬休み、悠二が家庭訪問に訪れるが、家の秘密を探られないように、必死になる。

 みどりから久代と和夫のことを聞かされ、財産分与の問題から、和夫のことを「全く不要な存在」とする。

(1)「四十八歳だが、年より五つ六つ若く見える」。一郎は、悠二の家庭訪問後のトキが「白粉が浮いて疲れて見える」顔を見て、「母親の素顔を見たことがない」と思う。

(2)家庭訪問をした悠二にみどりは「うちの母はすごいみえっぱりなの。自分のうちのボロは、絶対外に出したくない人間なの」と語り、自分はその正反対だと言う。悠二は、「母親のトキはからからと明るいが、何か油断のならない所がある」とし、「あんなに明るい母親と、何でも話し合えるというのであれば、一郎はああまで暗い影を持つはずはないだろう」とする。懇談では「頭が低く愛想がよかった。そのものおじしない明るい声に、一座の空気が一変した」とある。「生来のんきな方」で「夫の女性関係に余り神経を使ったことがない」。トキは、妻妾同居という現実から出歩き、月に一、二度東京に行って好みに合わせて染させた着物を着る度佐々林豪一の妻であることを後悔しなかったが、一方で奈美恵に対する憎しみが新たにわくのだった。そんな自身を「虚栄」とし、「誰もが持っている虚栄心を、わたしは自分の心の傷をいやすために、いっそう強めて来た。しかし、誰がわたしを責められるだろう」と思うのだった。

みどりは、「彼女は、婦人会のおえら方になって、外では教育ママみたいなことなど言ってるらしいけど、子供の扱い方など、てんで知らないの。自分がムシャクシャすると東京などに買い物に行って、それでスーッとするもんだから、多分わが子もそうだと思ってるのね。金では買えないものがあることを、彼女は知ってるのかしら」「彼女は、金さえあれば、たいていのことはがまんできると、たかをくくっているのよ」と言う。

「物欲が強い」。豪一からは「ほう、お前に指輪や着物より大事なものがあったとは知らなかったなあ」と言われる。「財産以上に大きな存在はなかった」。

(3)「ね、おねがいだから、夕食はうちでおあがんなさい。一郎さん。あなたおこづかいが足りないの? 何か買って欲しいの。欲しいものがあったら何でもおっしゃい。お金でも何でも、欲しいものはみなあげますから、受持の先生に食事のことなどで、注意されたりするような、みっともないことはおやめなさいね」(くもり日)