integral:三浦綾子資料室

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積木の箱:奈美恵

佐々林豪一の愛人。佐々林一家と同居している。名字記述なし。

「一郎より十四も年上」「二十七、八らしいわ」とあるが、みどりは、一郎に佐々林家について次のように語ったときに「奈美恵ねえさんはちょっとばかりルーズな所もあるけれど、二十八の未婚の女性としては、ヒステリッ気はないでしょ」(暗い部屋)とあるので、二十八歳。


一郎は、奈美恵を姉だと思ってきた。みどりによると「一郎さんは、小さい時から奈美恵ねえさんびいきだものね」。「幼いころから奈美恵が好きだった。母のトキや、姉のみどりよりも好きだった」のは「みどりのように年が近くないせい」、母と違い「いつも家の中にいたせい」だった。が、豪一の愛人であることを知り「奈美恵! あんな奴を、おれは姉だと思ってきたんだ。いつも昼まで寝ていて、何ひとつ仕事をしたことなんかない奴だ」と毒づく。「憎しみを抱きながらも、心の中で一郎はいく度か奈美恵を犯してきた」。

敬子が悠二に語ったところによると、一郎の前の担任(菊池)によると、「あまり体が丈夫じゃないので、結婚しない」という。

一郎に「台湾に行こうと思うの」と言うが、一郎が「台湾になんか行くんじゃないよ」とハッキリ言ったことから思いとどまる。自他共に認める「朝寝坊」で、トキは「あんな朝寝坊で、家事の手伝いひとつしない女を、誰がもらってくれるものですか」と笑う。

 トキの回想によると、十二年前、流産で入院したトキが退院してくると、奈美恵が家に入りこんでいた。登別温泉の飲み屋にいた奈美恵を豪一が連れてきたが、奈美恵の正体に気づかず、同情し、自分の娘のように面倒を見た。以来妻妾同居状態である。

奈美恵は、「地獄谷」の章で、「一郎さん、あたしね、生れた時に、もう父親がなかったのよ。母はあたしを登別温泉の地獄谷のそばに捨てて、どこかに行ってしまったの」といい、「満で十五の時」に豪一に会い、佐々林家にやってきて、ある晩豪一に犯されたが「小さい時に親にさえ捨てられた子は、どんな情けであっても、人の情けはほんとうにうれしいものなのよ。あたしはパパが本当に好きだった。ね、パパを好きになったあたしが悪かったかしら」と言い、悪いのは親父だと言う一郎に「あのまま飲み屋で働いていたら、あたしは多くの男のおもちゃになっていたかも知れないのよ」と言う。

豪一が不在の間、運転手の大野と関係を持ったり、一郎の体を思って、「大野とは全く違った興奮」を覚え、一郎の部屋を訪れる。一郎はそんな奈美恵に対して、「おねえさんて、悪い人だね」と言い、豪一との関係を指摘するが、奈美恵は「おねえさんはね、一郎さんが好きよ」と言い、奈美恵が豪一の部屋に入らないように見張っていてほしいと言い、一郎は部屋を見張る。

一郎が、奈美恵の部屋の真相を知るのは、「動く壁」の章である。奈美恵の部屋にいた一郎を発見したみどりは「ここはパパの二号の部屋よ。ちょっと、あんた、一郎まで誘惑するのはやめてちょうだい!」と「けんか腰」で言う。

奈美恵の男性観は次のとおりである。「男のくせに、女の一人や二人囲えないようでは頼りがないわ」「偉い男の人は、みんな本妻だけでがまんなんかしていないわ」と言い、みどりからは「金さえあればどんな馬の骨でもいいのね」と言われた際に「いいわよ、二、三万の月給を持ってきて、文句だけは一人前にいう男よりずっといいわよ」と言う。

「動く壁」の章で、一郎とみどりに、久代と和夫のことを話す。

(1)「白い顔」「色白で、肉づきのよい、どこか眠っているような感じ」「長い髪を、水色のリボンで束ねて、右肩から胸に垂らしていた。うす紫の長いガウンが、奈美恵を丈高く見せている」。体格の良さは、「やや長過ぎるほどの肉づきのいい足」。「大柄な白い体」「豊満な肢体」と描写される。

悠二を見つめる際には、「上目づかいに悠二を見た。ネットリとした絡みつくような視線である」「からみつくような視線」と描写される。28才だが、悠二には「二十四、五から、三十ぐらいの間」に見える。

トキは12年前の奈美恵について「十五、六の奈美恵はあまりに幼くて、トキは最初それが豪一の女だとは気づかなかった」。「奈美恵はどこかおっとりとしていて、いつも半分眠ったような表情」だとする。

美容室で奈美恵と隣り合わせになった久代は「奈美恵は、豪一にも、時にも似てはいない。大柄な体格と、少し眠いようなまなざしが、ふしぎなふんいきをかもしだしていた。久代は、いま思いがけなく、一郎を弟というこの女性と、隣りあっていることに、目に見えぬ糸のようなものを感じた」。「無造作に見えるが、久代にはとても手の届かないような薄紫の地の江戸小紋を、巧みに着こなしている」とし、一郎の従姉かと思う。また、そのときに、「人なつっこく、おだやかな女」だと「ひそかに好意すら持っていた」。

一郎から奈美恵のことを聞いた久代は、美容室で会った奈美恵を「どこか崩れたような線が、あの女性にはあったと思う」。

(2)みどりは、一郎に次のように語る。「奈美恵ねえさんはちょっとばかりルーズな所もあるけれど、二十八の未婚の女性としては、ヒステリッ気はないでしょ」。

家庭訪問をした悠二は「この人は未婚の娘だろうか」と不思議に思い、「娘とは違ったふんいきが、奈美恵にはただよっている」と感じる。「母親代りと聞いていた奈美恵は、とらえ所のやい軟体動物のような女性」とし、「姉とはどこか違ったものを持っていた」と感じ、一郎が言った「姉ではない」と言った言葉も含め、何者かが気になる。悠二は敬子に「ある種の男は、とりこになるでしょうね」と語る。

トキは、12年前の奈美恵について「気立てもやさしかった。親がなくて育ったというのに、人の顔色をみるようなところのないのが、トキには気に入った。トキのいうことに何でも素直に従ったが、どういうわけか積極的に働くことはなかった。言われたことをするだけで、あとはぼんやりと外を眺めていたりする。だが、トキは、そんな奈美恵をいじらしいとさえ思っていた」。

「ゆっくりとした口調」でしゃべるが「どこかねっとりとした感じ」。

(3)「だって、苦しんでるのは、本妻ばかりじゃないわ。人を苦しめるのが悪いのなら、あたしを苦しめるみどりさんやママだって悪いでしょ」(動く壁)