integral:三浦綾子資料室

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積木の箱:豪一/佐々林豪一

一郎と一郎の姉の父。五十一歳。

愛人の奈美恵を同居させている。女性関係については敬子が「女の人にもてるとか、二号が札幌にいるとか聞いたことがある」と言う。奈美恵には、札幌、洞爺、函館の愛人がどのような女であるか寝物語に聞かせる。

「佐々林豪一は、札幌の北栄中学にも北栄高校にもかなりの寄付をしている実業家であった。旭川の佐々林豪一といえば、北海道の外まで聞こえた木材業であり、洞爺、阿寒、札幌などに大きなホテルを持つ観光業者でもあった」。 一郎は「北海道一といわれる木材業の父、いくつかの温泉に大きなホテルを経営し、北海道の観光王と呼ばれる父、道内高額所得番付の屈指にある父、数えきれないほど多くの会社に名を連ねている父、そして一郎が学んでいる私立北栄中学にも、姉のみどりが通っている北栄高校にも、毎年多額の寄付をしている父」を誇りに思っていたが、奈美恵とのことを知ってからは「この世で最も嫌悪すべき、侮べつすべき人間のように思われてならなかった」と同時に「佐々林豪一はけだものだ」と思う。

奈美恵を同居させていることについて、一郎は母は何も知らないのではないかとした上で、「父は何という野ばんな、冷酷な人間かと思わずにはいられなかった」。

みどりは、一郎に佐々林家について次のように語る。「そうね。申し分のない家じゃないの。おとうさんやおかあさんは、外にばかり出ているけれど、別に仲が悪いというわけじゃないし(後略)」(暗い部屋)

12年前、トキに奈美恵とのことを知られるが、公然と奈美恵をかわいがる。「むしろ以前より、トキを熱情的に扱うようにさえなった」。

久代にとっては、「あの夜までは、久代は豪一を嫌うべき何ものもなかった。立派な社長であり、頼もしい紳士でさえあった」が、「いまでも時折夢の中で、あの夜の豪一におびえることがある」。

和夫は豪一に久代の店に買い物に来てほしいと言い、豪一の来店を待ち続ける。そして久代に「あのおじさんは、ものをくれるのが好きな人だよね。いばらないし、やさしいし、ニコニコ笑っていたし……。あのおじさんきっと天国にいけるよね」と語る。

トキから久代と和夫のことを聞いた豪一は、「一人で置いておくのは惜しい女だと食指を動かし始めた」。

(1)「たくましい体」「エネルギッシュな顔」。敬子は「五十代のちょっといかす紳士」「おなかなんか突きでてもいないし、あれならスマートだもの、わたしだってちょっとひかれるわ」といい、悠二は過去に札幌で見かけた時の印象について「いわゆる実業家肌という感じはしませんでしたね」と語る。この印象は「砂湯」の章でも変わらず、「白麻の服が、ピタリと見についた豪一は以前に感じたように、実業家というよりも、どこか芸術家に似た印象を与えた。この男が、妻と妾を同じ屋根の下においている無神経な男と同一人であろうかと、悠二はふしぎな感じがした」とある。また、悠二は和夫を抱いていたときの豪一について、「豪一の笑顔は、家庭のよき夫であり、よき父であるかのような印象だった。そのことに悠二はこだわっていた。悠二にとっては、妻と妾を同居させている男の心理が不可解だった。そのために、現に一郎は大きな打撃を与えられたではないか」とする。

「いい年と言っても、豪一は青年のような、真っすぐな姿勢をしていた。やや細身の体である。知らない人がみれば、四十を過ぎたばかりと見えたかも知れない。きれいにわけた髪も、まだふさふさと黒かった。額がはげ上がっているとはいえ、うしろ姿もまだ五十一歳には見えなかった」。「一見、豪一はいかにも紳士に見える」

(2)トキからすると「妻がきれいに着飾ることの好きな豪一は、着物や宝石のためには、惜しみなく金を与えた」。
一郎からずると「口数が少なく、いつもムッツリと何かを考えている父親」「気づまり」「厚顔な父」。

「自分のことはもちろん、関係している会社のどんな小さな広告でも、新聞に出ていれば必ず切りとっておかせるのだ。何度新聞に出ても、飽き足りるということはないようである」。

「砂湯」の章で、和夫は物おじすることなく豪一に話しかける。「何の警戒心も抱かずに、話しかけられる経験は豪一には絶えてなかった。社員たちは、常に豪一を社長として畏れた。妻も、一郎も、決して豪一には心やすく話しかけることはない。みどりでさえ、快活をよそおっているだけに思われた。ただ奈美恵だけが豪一を頼りきっていた。とは言っても、その奈美恵の心の底まで豪一は知ることはできなかった」。和夫は、豪一に「ほう、坊やには、おじさんがやさしくみえるかな」と尋ねられた際に「やさしいよ。みんなにチョコレートや、ジュースや、ガムをくれたもん。おじさんはずいぶん金持なんだね」と答える。一郎は、豪一が奈美恵とみどりを同伴し、クラスのみなにチョコレートなどをさしいれたことに対して、豪一に憎しみを感じ、「うちのおやじには、良心なんてあるんだろうか」と感じ、久代に「おばさん、ぼくはおやじにしてほしいのは、あんなことじゃないんだ。二号を連れて友だちにお菓子なんか配ってもらたって、ぼくはみじめなだけなんだよ。ぼくがおやじにしてほしいのは、奈美恵ねえさんをお嫁にやって、うちの中を清潔にしてもらうことなんだ」と語る。

みどりは、悠二が一郎の放火をかばったことについて両親に告げ、豪一に「おとうさんのように、損は何一つしまいという人と、あの先生とは人種が違うわ」と言う。 火事の件を知って以来、一郎には「むやみにきびしくなった」。奈美恵との関係は「以前よりおおっぴらにさえなった」。

(3)「いかにもおれは畜生だ。畜生というものは自分の子が取られそうになると、わが子を食いころす。あの二人を、お前が連れていく前におれが殺してやる」