integral:三浦綾子資料室

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ドイツトーヒ

・『大辞泉』(増補・新装版)によると、

林弥栄編『山渓カラー名鑑 日本の樹木』(1985、山と渓谷社)によると、

ヨーロッパトウヒ
トウヒ属
別名/オウシュウトウヒ・ドイツトウヒ [常緑高木]
日本には明治中期に渡来した。高さ20~30メートルになるが、原産地では大きいものは高さ70メートル、直系2メートルに達する。樹冠は鋭円錐形または広円錐形で、老木になると枝が垂れ下がる。樹皮は褐色だが、老木になると帯紅褐色または灰色になり、鱗片状に厚くはがれ落ちる。花は5月に開く。球果はトウヒ属のなかで最も大きく、長さ10~20センチの円柱形または長楕円形で、はじめは緑色、9~10月に成熟すると鮮褐色になる。鳩時計のおもりはこの球果をかたどったものである。用途 公園・防風林、建築・土木・器具・楽器材、マッチの軸木、パルプ 分布 ヨーロッパ原産

『丘の上の邂逅』の収録作品解題には「ドイツトーヒは現在はヨーロッパトーヒと呼ばれている」とある。(p186)

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『氷点』:
・夏枝は、ルリ子を探すためこの林の方にかけて行く。そして、烏の死骸につまづいて「いやな予感」がする。(誘拐)
・啓造と徹は散歩に出かけるが、「ひる来ても、何か不気味な感じのする林」と描写される。(線香花火)
見本林で陽子に出会った北原は、立て札で名前を覚えたと告げ、見本林に植えられたいくつかの植物の名を挙げる。(千島から松)
・見本林で陽子は徹に高校卒業後の進路について聞かれ、夏枝が辻口家から嫁に出したいと言っていたことを知り喜ぶ。陽子にとっては「暗いけれど、一番好き」な林で、徹は陽子を一人の女性として意識していることを告白する。(『氷点』堤防)
・陽子は自殺をするためドイツトーヒの林に入ろうとするが、カラスの死体に立ち止まる。それは「自分の死と、これらのカラスの死と、一体どのようなちがいがあるであろうかと陽子は思った。人間の死も鳥の死も、全く同じであると考えることは淋しかった」からである。(『氷点』ねむり)。
・陽子にとっては、「小さい時からよく遊んだ、思い出の多い林」(ねむり)

『続氷点』:
・「ドイツトーヒの林の中は、夕ぐれのようにうす暗かった。山場とが啼いていた。ふくろうのような淋しい声だった。」(延齢草)
・「向うのドイツトーヒの林には、山鳩が啼いているかも知れませんよ」と啓造は順子に言う。(石原)
・順子と夏枝は手をつないで、ドイツトーヒの林の方へ降りていく。(石原)
・「ドイツトーヒの林の中は、枝が空を遮ってうす暗く、今日は子供の声もしない。ひっそりと立つ木々の幹に、青い粉をふりかけたような苔が生え、木の根が静脈のように小道に浮上がっている。一本一本の木が、意志を持ちながら沈黙しているかのように啓造には思われた。」(石原)

「日本の旅情 旭川」(『丘の上の邂逅』所収):

わたしは、小説『氷点』の中に、見本林という松林をいく度か書いた。その見本林をみるために、春、夏、秋、冬、そして夜、昼、朝と、何十回となくこの林を訪れてみた。(中略)
しかし、冬の見本林を訪れたある日、わたしはその樹氷のみごとさにことばもなかった。針葉樹のあの一本一本に霧華がキラキラと輝き、林全体がガラスか水晶でできているような、そんな印象であった。林の中のまっ白な雪の上には、松葉がわずかに散っていて、その雪の上に、何十羽のまっ黒いカラスが死んでいた。寒さのために、カラスの命も凍えてしまったのであろうか。そのカラスを踏まないように気をつけながら、ドイツトーヒの林の中にはいっていくと、雪の見本林は明るく、清々と、そして寂しかった。