『氷点』では、次のように説明される。
北海道や樺太の鉄道、道路、河川の工事などは、前借金で重労働する、このタコと呼ばれる人夫達のぎせいによって、進められたことを、啓造も知っていた。
ルリ子を殺した佐石土雄は、16歳の時タコ部屋に売られた。
タコ部屋は「監獄部屋」とも呼ばれ、啓造は旅行中に、「タコがすっぱだかに赤いふんどし一つで、道路工事をしている」ことや
(あれが人間か)
と思われる恐ろしい形相の棒頭が、けもののようにわめいていた。過酷な労働にたえかねて脱走すると、鉄砲をもった棒頭たちが、軍用犬数頭とともに、それを追い、運わるく連れもどされた男は、他へのみせしめに、川の中にさかさにつけられたり、背に焼けひばしをつけられる話も、その時きいた。