『氷点』:啓造は、洞爺丸事件から十年後、「この本は、本当におれに新しい生き方を教えてくれるだろうか」「あの人のように、おれは生きたいのだ」と聖書をめくると、次のページに出くわし、「自分と同じように、妻を憎み、のろったであろう数知れない男たち」のことを思うとともに、「妻への憎しみのために、自分の子を殺した犯人の娘を引き取るなどという、たわけたやつはいないだろう」と思い、教会へ行く決心をする。(『氷点』階段)
夫は家にいません、遠くへ旅立ち、手に金袋を持って出ました。満月になるまでは帰りませんと、女が多くのなまめかしい言葉をもって、彼を惑わし、巧みなくちびるをもって、いざなうと、若い人は直ちに女に従った。