(1)雪が降る前に現れる羽虫
北国では、雪の降る前になるときまって、乳色の小さな羽虫が飛ぶ。飛ぶというよりも、むしろ漂うような、はかなげな風情があって、人々は寒さを迎える前のきびしい構えが、ふっと崩されたような優しい心持になるのであった。(『氷点』雪虫)
(2)『氷点』の第23章の題名。
洞爺丸の遭難事故の後、函館から帰った啓造は、徹との会話から、夏枝が自分の留守中に村井と会いたいがために旅行を中止したことを知り、海難事故の体験は自分一人のものだったと孤独を感じ、富貴堂書店で聖書をあがなった。
あくる日、啓造は陽子と一緒に遊ぶが救命具を他人に譲った宣教師のようには人を愛せないと落ち込む。
啓造は高木の訪問により、村井の結婚話を知る。
(3)あわあわしさのたとえ
啓造は雪虫をソッとつまんだ。しかし雪虫は他愛なくベタベタと死んだ。それは一片の雪が、指に触れて溶けるような、あわあわしさであった。
(幸福とか、平和というのも、この雪虫のようなものだな)(『氷点』雪虫)