integral:三浦綾子資料室

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氷点・続氷点:夏枝/辻口夏枝(つじぐちなつえ)

夏枝/辻口夏枝(つじぐちなつえ)

昭和21年(26)~

啓造の妻。。「朝日新聞」2014年6月28日の記事「小説「氷点」、原案は「風」 三浦綾子の創作ノート確認」では、「國井園子」という名前であったことが報じられた。
啓造の恩師の娘であるが、啓造は「夏枝は父親にはどこも似ていなかった」と思う。結婚するまでは札幌で育った。
徹、
ルリ子の母。陽子の義母。作品冒頭(昭和21年)で26歳。ルリ子を出産後、軽い肋膜をして避妊手術を受ける。

(1)「つややかな瞳に、長いまつげが影を落としている。とおった鼻筋に気品があ」り、「雪国の女性らしい、肌理こまかい色白の顔」「どうのくびれが人より細い」という容姿で非常にもてる。村井は「関心を持つことすら憚れるような犯しがたい美しさ」を感じる。夏枝が、実際に浮気をしなくても、浮気心があることを高木は手相を見ながら指摘、村井が夏枝に対して本気だったと伝え、啓造に対して「いろんな男の思いのかかったフラウ(妻)をもって、辻口もラクじゃなかろうな」とつぶやく。四十を過ぎても、「夏枝が四十を超しているとは誰も見ない。誰にも三十そこそこに見られるだろう」という容姿。

(2)夏枝の性格として最初に指摘できるのは幼さである。その幼さは「愛してくれるから愛する」(『氷点』)「新しい玩具を見ると、今持っている玩具を投げ捨ててしまう子供の」(『氷点』)ような幼さとして叙述されている。

次に、自己愛の強さである。「夏枝は鏡の前に座ることが好きだった。鏡の中の自分に見ほれることは、快かった。そこには、自賛があった。しかし鏡にうつる自分に見ほれることからは、人への愛は生まれなかった。鏡は目に見えるものしかうつさなかった。心をうつすことはできなかった」と表現される。また、早くに母を失ったことで父から甘やかされて育った夏枝は「すべての異性は夏枝の美しさを賛美し、夏枝の意を迎えようとするものでなければならない」と思い込む。そしてその思い込みは北原によって手厳しく非難され、屈辱を感じるのだった。ほかに指摘できるのは「やさしそうだが、一度いいだしたらきかなかった」という点である。(『氷点』)

三点目に挙げられるのは、醜さへの嫌悪である。「夏枝はみにくい人間がきらいだった。生理的に受けつけなかった」し、「みにくさは、夏枝にとっては悪ですらあった」が、「その冷たさがなければ、もっと美しくなれるということなど、夏枝は知らないようであった」。

村井は「冷たく優しい人」と夏枝を評する。

啓造は、ルリ子を失った際の夏枝の様子に「人になじみにくい性格から考えても、分裂症になる可能性はないとはいえなかった」と、精神分裂症を疑う。陽子は、辰子の家に行かないように注意されたときに「夏枝には人をくつろがすものがなかった」と夏枝と辰子を比較する。

「きれい好き」の夏枝は、退院後「柱も廊下もカン性にみがきたてた」。几帳面で、滅多に人手に任せない。が、辰子によると、「結婚した時から今に至るまで、同じ缶を同じ場所においてる」ので、どこに貴重品があるのかが分かるという。洞爺から帰って来た村井を出迎えた夏枝は、村井の容貌の変化に失望し、家の掃除をおろそかにする夏枝を啓造は、「癇性の夏枝にはないことであった」と感じる。

辰子に「昔からケチなところがあった」と評されるように、人から物をもらうことに慣れており、人から物をもらっても、おごられても、めったに返すことがなかった。この性格は、給食費を陽子に渡さないエピソードで指摘される。

(3)村井さんのくちづけを、うなじに受けただけなのに、ルリ子は殺され、その上、殺人犯の子を、私は何も知らずに育ててきた。わたしはこんなに罰せられなければならないほどの悪いことをしたというのだろうか(『氷点』)

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◎『続氷点』では次のように描写される

陽子を自殺するまでに追い詰めたことに、夏枝は申し訳ない思いで一杯になる。夏枝について、陽子は「陽子のおかあさんはね、生れてすぐから育ててくださった、辻口のおかあさんだけよ」と辰子に語る。 

肌の荒れを気にするので、コーヒーは滅多に飲まず、緑茶を飲む。

(1)「聴診器」の章で「細面の夏枝は、一見弱々しく見えるが、しんは丈夫であった。夫の啓造に聴診器をあてられることなど、めったにない」とあり、啓造は血圧を測るが、夏枝の血圧は低かった。しかし、啓造は夏枝の普段の血圧をしらないことが描写されている。

 啓造によるとまだ三十代には見える。

(2)徹によると、「少し自分勝手」で、陽子のことについては殺人未遂とまで「ハッキリ言わないと、物事がハッキリ見えない人間」。辰子によると「だいぶやきもち焼き」。啓造によると「言葉づかいもていねいで、どうさもしとやかだ。几帳面で掃除も行きとどき、料理もきめこまやか」でどこからみても「優しい女性に見えた」にも関わらず、「人の贈り物を心から喜んだことのない」「ふしぎな性格」。「大学教授の娘として育ち、医師の妻と過ごしてきた」ため、「贈り物に慣れすぎて来た」だけではなく、「人の心を思いやる、本当の優しさが欠けている」。

豊富温泉に誘った時、高木が冗談を言うと真に受けた。啓造によると「ユーモアのわからぬ女」だが、高木によると「少女のよう」で「むきになるところがかわいい」。

松崎由香子の墓に連れてった村井に「冷たい人」「わからない人」「葬り切れないんです。憎い人です」と言われる。

陽子は、啓造に「女性のお手本」だと、啓造に対する夏枝のこまやかな気配りについて語る。「新芽」の章で、陽子は順子に「うちの母は、人一倍ていねいなのよ。煮干や、こんぶや、けずり節など、その時その時で組み合わせるの」と語る。

夏枝が旅行の最中由香子の世話に痛々しいほどに心を使っているのを見て、夏枝本来のやさしさに気づく。夏枝と陽子が茅ヶ崎に行った際、手伝いに来た次子は、啓造に「いつもわたしたちこそ、奥さんにやさしくしていただいて……」「奥さんはちっともわがままではありません」と語っている。また、次子の姪の浜子が働きに来ている話を聞いた辰子は夏枝を偉いと評する。

高木は結婚の際、「俺はな、夏枝さんの手で、引導を渡してもらわにゃ、成仏できんのだ」と啓造たちに仲人を依頼する。

夏枝の父は、陽子に夏枝を叱れず、甘やかして育てたことをわびる。

徹は、啓造に「おふくろも、悪い人間じゃないんだけれど……」「……何をしでかすかわからない感じがしない?」と言っている。また、夏枝の口から順子のことを知らされたことについても「おふくろって信用のできないひとだからね」と陽子に語っている。

辰子は、「夏枝って、かわいいんだけど、妙なからみぐせがあるのよねえ」と評する。

(3)「おかあさんはね、だめよ。気分のいい時だけやさしいのよ」(たそがれ)「あのね、陽子ちゃん。おかあさんね、飛行機の中で、もし万一飛行機が墜落したら、何が一番心残りかと思ったのよ。陽子ちゃんに心からあやまっていないこと、それが一番心残りだと思ったわ」(たそがれ)