integral:三浦綾子資料室

作家・三浦綾子に関する研究をするブログ。※予告なしに記事の修正削除およびURLの変更を行います。

氷点・続氷点:村井/村井靖夫(むらいやすお)

村井靖夫(むらいやすお)

『「氷点」を旅する』に収録されている「三浦綾子がつづるあらすじ」では、昭和二十四年の4月にシベリアより帰還し、夏休みに徹と陽子を連れて旅行中の夏枝と再会し、デッキで唇を奪うとある。

作品の冒頭(昭和21年)では28歳と設定。辻口病院の眼科医。「村井の二年つとめた成果が、今あらわれつつあった」とあるので、辻口病院に勤め始めたのは、昭和19年ごろか。村井が優秀な眼科医であることは、「村井にはふしぎに患者がついた。このごろは特に人気があった」「彼の手指の器用さは、大げさにいえば、天才的といってもよかった。手術がうまかった」(村井が洞爺に行けば)「病院の経営からみると痛手であった」という描写から推察できる。

高木と村井とは遠縁にあたる。

啓造の妻・夏枝に思いを寄せる。ルリ子の事件と前後して、空洞のある結核が判明、一時治療のため洞爺で療養生活を送る。夏枝に思いを寄せる一方で啓造に思いを寄せる由香子と性的関係を持つが、高木によると「村井は女たらしだが、あんた(=夏枝)にだけは本気だったようだ」。

(1)「広いひたい」を持つ。「淫蕩な不健康な感じ」「いやらしいうすわらい」を浮かべるため、啓造は嫌悪感を抱く。身長は長身(具体的にはわからないが、啓造より5センチ高いという設定)。夏枝は、「男にしては美しすぎる黒い瞳であった。その目が、時々どうかすると虚無的に暗くかげることがあった。その暗いかげり」に惹かれ、啓造は夏枝が村井と密会していたのではないかとかんぐった際に「ねたましいまでに美しい目」を思い出す。「長いまつ毛」。結核を患い、洞爺で療養を終えて帰旭した際は肥り、「むくんだような、輪かくの線のぼやけた」顔をして「どこかが、うすよごれていた」ため、夏枝を失望させる。しかし、5ヶ月後「白いバーバリー・コートのベルトをきゅっと締め、黒いソフトをかぶった」「顔も体も別人のように引きしまって、昔よりずっと渋みのある美しい」村井に再会した夏枝は、啓造との旅行を取りやめる決心をする。

「初対面の人間に、村井は今まで辰子のようにそっけない態度をされたことはなかった。男であっても、女であっても必ず村井を見た瞬間、はっと息をのむように凝視する」ような容姿で、辰子によると「村井先生ってあの人なの! いったいあの人のどこがよくてさわいでいるんだろう?」と言われる。

(2)「虚無的」で啓造とはまったく性格が異なる。しかし、啓造は「どこか肌が合わなかった。それでいて何となく気になる存在」だと認識。

(3)「結婚してみなきゃわからない。いや、結婚して何十年たったってわからない。人間ってそんなところがあるんじゃないですか」(『氷点』)

◎『続氷点』 

辻口病院眼科医長。啓造とは二十年近いつきあい。「村井の手術は、天才的といえるほどすぐれていた。患者扱いもよかった。したがって、院長の啓造が受持つ内科以上に、村井の眼科は患者が多かった」ので、啓造は時折開業を言いださないか不安になった。

徹は、少年の日に、村井と夏枝とのことを知って以来、村井のことを嫌っていた。

(1)「いつ見ても若い」「(啓造より)二つ三つ年下」「確かもう四十六、七のはずである」。陽子の目には「彫りの深い整った顔だが、どこかが崩れている」ように感じ取られた。由香子を見つけてからは、「村井の表情、ことば、態度の一つ一つが、近頃の啓造には、特に不快だった」「許し難い感情」を感じる。「花ぐもり」の章では、口ひげをのばして、辰子から「気障」と評され、「ひげなき接吻は、バターなきトーストの如しという言葉がありますよ」と言っている。「ふだんは青白い」顔、「時折り、まなざしが暗くかげったかと思うと、自嘲的な笑いがその唇にうかぶ」のを見て、徹は何故夏枝が心揺らいだのか疑問に思う。

(2)咲子に去られたことを知った啓造は、「村井という人間の不まじめさ」をつくづくと思う。松崎由香子の墓に連れて行かれた帰り、車のスピードを上げた村井に夏枝は「村井さんて、こわい方ですのね」と言うが、村井は「辰子さんにいわせると、ぼくは三歳の幼児のようだそうですよ」と返す。高木の母の通夜で、元妻の咲子は大学を出て、社会的地位の高い職業にあるが「女性を人間として扱わない」「人間の屑」。

「歳暮と中元を欠かさぬという、一見投げやりな彼に似合わぬところがあった」

(3)「奥さん、人間はね、いろいろな墓を胸の中に建てているものですよ。ぼくの胸には、咲子の墓も、由香子の墓も立っています。過去にあった女や男、いろいろな人間の墓が建っていますよ」(バックミラー)