integral:三浦綾子資料室

作家・三浦綾子に関する研究をするブログ。※予告なしに記事の修正削除およびURLの変更を行います。

淋しい/さびしい

(1)自分をかけがえのないものとして愛してくれる存在が認められない孤独感

『氷点』:陽子は、夏枝に首を絞められた後、家を出る。初めて一人で旭川に出たバスの車中で、生れてはじめて「淋しい」という感情を知る(『氷点』橋)。自殺をするためドイツトーヒの林に入ろうとするが、カラスの死骸を発見して立ち止まり、「「淋しい」/と思わず陽子はつぶやいた」。それは「自分の死と、これらのカラスの死と、一体どのようなちがいがあるであろうかと陽子は思った。人間の死も鳥の死も、全く同じであると考えることは淋しかった」からである(『氷点』ねむり)。

『続氷点』:
・村井の元を去った咲子は、書きおきに次のように残している。「あなたは、一つ屋根の下に住んでいながら、死ぬほど淋しがっていたわたしの気持には、全く気づかなかった」(黒い雪)
・「自分にとっては重大な自分の死も、人々にとっては何の痛痒も感じない事件なのだ。それは、他の人々の死が、啓造自身にとって、所詮他人ごとに過ぎないのと同じだった」と気づき、「孤島にあるような淋しさ」を感じた。(聴診器)
・夏枝は陽子に「生きてるって淋しいわね」と語る。それを聞いた啓造は、「そうだ、夏枝も淋しいのだ。その淋しい者同士が、何でつまらぬ争いをくり返すのか。淋しければ肩をよせ合って、仲よく生きるべきだ」としみじみ思う。(聴診器)
・「そうねえ、なまじ老人の日があるために、死にたいほど淋しくなる老人もいるわけよねえ。死なないまでも、それにすれすれの、やりきれない気持になる老人もいるかもしれないわ」(花ぐもり)

『積木の箱』:
・「ふと久代は、和夫を生んだ帯広の街を思い出した。淋しいほど広い通りの街だったような気がする。いや、何を見ても久代自身が淋しかったのかも知れない」。(風鈴)
・たまたま久代と悠二の手が触れたところを目撃した一郎は、「久代を奪われたような淋しさと、憎しみ」を忘れることができず、二学期初日、悠二のロッカーに下着を入れる。(ロッカー)

(2)倫理、罪意識の欠如

『氷点』:
高木は、中絶手術を行う自分に対し「そのうちにこんなことにも馴れて、へとも思わなくなるんじゃないかと思うと、つくづく淋しくなることもありますよ」としんみりする。(『氷点』チョコレート)

『積木の箱』:
・玉脇とやり合った河部は「しかしそれにしても教師をしていて紙一枚父兄からもらわないなんて、キレイなことはぼくらにだって言えないんだからなあ。なんだか淋しくなっちゃったなあ」と言い、また赤井も「しかしねえ、教師もうす汚れていくしょうばいなんだと思うと、やっぱりぼくも淋しくなっちゃった」と語る。

(3)心が満たされず、物足りない様子

『続氷点』:
・啓造は、陽子に「おとうさんは人々に何を与えたかねえ。そんなことを考えると、いいようもなく淋しくなるよ」と語る。(聴診器)
・夏枝は啓造が一人で見本林の桜を楽しんでいたのだと「無性に淋しかった」。(花ぐもり)
・陽子は、達哉とお互いの好物を教え合い、楽しい会話をしたのもつかの間、部屋に通すことを拒んだことから、達哉は怒って去ってしまう。陽子は「それは淋しいことだが、そのほうがいいのかもしれない」と思う。(素描)

『積木の箱』:
「とにかくこれでは自分も、生徒たちをどれほども理解していないのではないかと、悠二は思った。そして生徒たちも、自分をどのくらい理解できるだろうかと考えると、何か淋しい気持がした」。(草の上)

(4)淋しい

『積木の箱』:
・「和夫は地図をひろげた。常盤公園を突っ切って、白鳥の池の方に矢印がついている。公園にはいくどか来ている。(略)和夫は、市立図書館の横を通って、千鳥ケ池のそばに出た。池にはボートがたくさん出ていて、若い男女や、学生たちが楽しそうにオールをこいでいる。和夫は天文台ドームのある築山の上にあがって、しばらく池をみていた。誰も知った人がいない。和夫は少し淋しくなった」。(鉄柵)

※「さびしい」は「月日がたてばうすれ」るもの。『氷点』では、「淋しい」と「さびしい」が使い分けられている。