integral:三浦綾子資料室

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氷点・続氷点:啓造/辻口啓造(つじぐちけいぞう)

啓造/辻口啓造(つじぐちけいぞう)

大正4年~

『氷点』の主人公。辻口病院の院長。戦時中は、三ヶ月ほど天津で兵站病院での軍医生活を送るが、肋膜炎で旭川に戻ってくる。「朝日新聞」2014年6月28日の記事「小説「氷点」、原案は「風」 三浦綾子の創作ノート確認」では、「國井信介」という名前であったことが報じられた。

(1)村井によると、ルリ子は「何かこう神経質な感じや、はれぼったい眼なんか、院長にそっくり」である。

(2)夏枝にとっては、「学者肌で、神経質だがとげとげしいところが少なかった。もの静かで優しい夫であった。信頼できる夫だった」し「医者としても夫としても尊敬していた。何の不満もなかった」。父の教えを守り、「医師は、いついかなる時にも医師であれ」の言葉通り、洞爺丸に乗っていた時には、「スーツケースの中には、聴診器、血圧計から注射器、薬剤、小型の懐中電灯まで入っていた」。

「生真面目」。高木は、「ばかが三つも四つもつきそうな真面目な奴だった」という。「学者肌で、神経質」「几帳面」、自分を押さえる性格。啓造の几帳面な性格は、夏枝にも机の上を触れさせないところや、小学校3年生の時からほとんど一日も欠かさず日記をつけていることや、字の一点一画をおろそかにしない点からもうかがえる。人の家でも、どこでも訪ねるのが苦手。

陽子を引き取る際には、自身を「おれのような小心者は小さな嘘はいえなくても、大きな嘘はつけるのかもしれない」と思う。気にかかる患者があると、当直の医師に任せて帰ることができない。啓造自身はそんな自分を責任感が強いのではなく、小心なのだと思っている。通勤には車がきらいなのでバスで通う。

一方で、「生来の嫉妬深さ」と描写されるように嫉妬ぶかく、この嫉妬ぶかい性格が恐ろしい事件を引き起こすのである。また、よく気がつくようでいて、肝心なことに気がつかない啓造の性格はたとえば、陽子の出生の秘密を夏江が知ったことにまったく気がつかないことに端的に現れる。津川教授は、一度だけ、夏枝に「辻口という男は、腹の底からわからないところがある」と評している。

(3)「犯人を一生憎んで暮らすか、汝の敵を愛せよという言葉を生涯の課題としてとりくんで生きていくか、この二つしか今は生きようがなくなったんだよ。憎んで生きていくのはみじめだからね。わたしはその子を愛して生きていきたいのだ」(『氷点』)

◎ 続氷点:啓造/辻口啓造

短歌を作り始め、高木からは「都々逸でも作ると、お前もいい男なんだがなあ」と言われる。
学生時代は、陽子と同じ美術サークル「黒百合会」に入っており、茅ヶ崎の夏枝の父(津川教授)の部屋に啓造の絵が飾られている。

(1)「もう五十」「鏡に向う度に白髪が目につくようになった」。白髪について啓造は、高木に「目立たないが、ぽつぽつ」と言っている。「年の割りに皮膚にも張りがある」。字を読むときには老眼鏡がいる。「たそがれ」の章では、高木との会話で「自分が人生の秋にさしかかっていることを痛感した」。「聴診器」の章では、「耳鳴りにつづいて、後頭部に突刺すような痛み」を感じ、恐怖するが、「池の面」の章では、高木も肩こりや、頭痛・耳鳴りをすることを知って安心する。

(2)村井によると「損な性分」「責任感のある良心的な医師」。自身については、「たそがれ」の章で「傷心だが、勤勉に生きてきたはずの自分の中に、近ごろは怠惰な、そしてどこか、大胆な思いがしのびこんできているような気がする」と感じている。

 辰子によると「辻口のダンナねえ。あのひとは全く品行方正だよ。しかし、あのひとはいいことをしていても、悪いことをしているみたいに、いつも反省ばかりしてるからねえ。救いがたい人ではないわねえ」

 夏枝と家のことで言い合いになった時には、自分のことを「十年一日の如き男」と言う。
 

 陽子は、「父はまじめな、やさしい人だ」とした上で、順子にわびたいと啓造が言った理由を推測する。が、啓造が殺人犯の娘を引きとった理由は陽子の推測とは大きく異なっていた。

(3)「第一、人間なんて、誰しも自分の過失や罪のことなど、忘れやすいものだよ。たとえ自分の過失で、わが子が死んだり殺されたりしてもね」(燃える流氷)