integral:三浦綾子資料室

作家・三浦綾子に関する研究をするブログ。※予告なしに記事の修正削除およびURLの変更を行います。

ゆるし/ゆるす

『氷点』:
ヒロイン・陽子は遺書に「ゆるし」と記し、「私の血の中を流れる罪を、ハッキリと「ゆるす」と言ってくれる権威あるものがほしいのです」と残す。

『ひつじが丘』:
・奈緒実は死んだ良一が残した画(「十字架にかかったキリストから、血がしたたり落ちていた。その十字架の下にキリストの血を浴びてじっとキリストを見上げている男の顔、それはまぎれなく良一の顔ではなかったか」)を見て「良一はイエスの方に両手をさしのべて、ゆるしを乞いながら、そして、そのゆるしを信じて死んで行った」と思う。
・耕介は良一の葬式の際、式辞で次のように述べる。「われわれが神の為にでき得ることは、実は人を責めることではなく、ただゆるしを乞うことだけではないでしょうか」「人間はまことに過失を犯さなければ生きていけない存在である故に、われわれは、ただ神と人とにゆるしていただかなければ、生きて行けない者なのであります」と述べる。
・奈緒実は、良一にゆるしを乞うために京子を竹山と結婚させてやりたいと思う。

『続氷点』:
・啓造は、辰子に陽子が遺書に「ゆるし」について書いていたが、自身もゆるしてほしいと思うと語る。(辰子の家)
・辰子は啓造に「だけどね、ダンナ。ゆるすって、人間にできることかしら?」と言う。(辰子の家)
・啓造は、「恵子の過失はゆるせる。夏枝の過失はゆるせない。それなら、自分自身の過失は許せるだろうか」と考え、「誰のことより、自分のことはたやすくゆるしている」ことに気づく。(寝室)
・陽子は日記に、「人間はみにくい」とし、三井恵子と中川光夫のことをみにくいと記す。また、「その母を憎むこのわたし自身もみにくい」とした上で「これだけではいけない。ゆるさねばならない。自分もまたゆるしてもらわねばならないと思いつつも、しかしわたしは、いつも憎しみの淵に堕ちるしかない思いだった」と記す。(命日)
・また、陽子は日記に「ともわれ、順子さんは殺人犯の父をゆるすことができたのだ。それならわたしにも、母をゆるすことができるはずである。そうだ、確かにできるはずなのだ。が、わたしにはできない。なぜ順子さんにできたことが、わたしにはできないのか」と記している。(命日)
・陽子は順子や啓造の言葉に対して、「順子さんは、忌まわしいその父を許すことができた。また、辻口の父は、順子さんにわびたいといった。だがわたしには、小樽の母を許す気持も、母にわびたい思いもない。このわたしが、小樽の母にわびねばならぬことは、一つもないと思っている。しかしそう思いながらも、果たしてそうかtという声が聞こえるような気がする。それは一体なぜだろう」と順子と自分の違いを考える。(命日)
・陽子は、許すということについて、「許すとは、何と困難なことであろう。そして不可解なことであろう。そうだ。わたしには、それは、困難というよりも不可解なことなのだ。特にわたしにとってわからないことの一つに、人間同士、お互いに許し合えたとして、それで果たして事はすむのかという問題がある」と、自身の北原への思いが変ったことを例に考える。(命日)
・恋人を獄中で殺されたことへの恨みについて、辰子は次のように語る。「あのね、いつか何かの小説で<自ら復讐すな。復讐するは我にあり、我これを報いん>という言葉を読んだのよ。その言葉にぎくりとしてね。何かよくわからないけれど、その言葉は真理だと直感したのよ。それからは、ふしぎにすっと気持が軽くなっちゃった。何しろ、わたしが復讐するよりも、もっと厳正な復讐があるにちがいないと思ってね。そしてね、真に裁き得るものだけが、真にゆるし得るし、真に復讐し得るのだとも、思うようになったのよ」(曙光)
・陽子は、小樽の母をゆるせず、「そのまま受けいれる思いにはなれない」自分について、「若い女性としての、単なる潔癖だけによるものではない」と思っていた。(晩秋)
・恵子に疑惑を抱く達哉に対して、陽子は「そんなに好きなおかあさまなら、たとえ何をしたって、ゆるして上げるべきじゃない?」と言うが、達哉は「いやだ。僕は母が美しいから好きなんだ。もし、そんな……うす汚れた人間だとしたら、決して許しゃしないよ」と語る。(追跡)
・「わたくし、教会に行ったことはありませんけれど、キリストさまって、どんな人間の罪でも許してくださるそうですわ。それなら、その教えをおききになっていらっしゃるおとうさんも、責めずに許してくださってもいいと思わない、陽子ちゃん」と続ける。(燃える流氷)
・「既に二十年前に、三井弥吉は妻の裏切りを知っていたのだ。知りながら許していたのだ。なぜ許し得たのか。それは、妻を責める資格が自分にはないという、罪の自覚によるものではないか」。(燃える流氷)
・恵子は「陽子さん、ゆるして……」と陽子に語りかけるが、陽子はそっけなくその場を立ち去る。(燃える流氷)
・陽子はイエスがゆるしたことに疑問を抱き、「罪は、たとえ人間の命をもってしても、根本的につぐない得ないものだからでもあろうか。確かに罪とは、ゆるされる以外にどうしようもないものなのかも知れない」とする。(燃える流氷)
・陽子は三年前に「罪をハッキリとゆるす権威あるものがほしい」と遺書に書いた「真実の自分の願い」がよみがえったような気がする。(燃える流氷)
・「人間同士のゆるしには、恐らく完全を求めることはできないであろう。許したつもりが、いつまた憎しみが頭をもたげてくるかわからない。それは、啓造と夏枝の姿を見ていても、わかるような気がした。そのような不完全なゆるしに、真の解決があるとは思えなかった」。(燃える流氷)
・陽子は「愛は意志だ」という言葉の深い意味はわからないが、「そのかくたる意志が与えられたい」と思う。「それは、真に罪をゆるし得る、唯一の権威あるものの存在によって、与えられるような気がする」。(燃える流氷)
・燃える流氷を目の当たりにした陽子は、「先程まで容易に信じえなかった神の実在が、突如として、何の抵抗もなく信じられた」。「人間を超えた大いなる者の意志を感ぜずにはいられなかった」とし、「いまこそ人間の罪を真にゆるし得る神のあることを思った。神の子の聖なる生命でしか、罪はあがない得ないものであると、順子から聞いていたことが、いまは素直に信じられた。この非情な自分をゆるし、だまって受けいれてくれる方がいる。なぜ、そのことがいままで信じられなかったのか、陽子は不思議だった。(略)陽子は静かに頭を垂れた。どのように祈るべきか、言葉を知らなかった。陽子はただ、一切をゆるしてほしいと思いつづけていた」。(燃える流氷)

『積木の箱』:
・「あのね。どうか天国へいかせてください。ぼくは、怒ったりいばったりするけど、どうかゆるしてください。それから、ぼくをなぐった人も、神さまは怒らないでください。それから、ぼくにおとうさんをください。……そんなことをお祈りするの」(炎)