『ひつじが丘』:
良一は、ルオーのキリスト画について次のように語る。「うん、この間ルオーのキリストの絵を見ていたらね、ふいにそんなことを考えちゃったんだ。俺は聖書なんか読まないけれど、ルオーのキリストを見ていたら、何かこう迫ってくるものがあるんだ。悲哀っていうのかなあ。このキリストと俺は無縁の人じゃないっていう実感があるなよ。今までルオーは幾度も見ていて、こんなことはなかったのに……」また自分のかく絵に対して疑問を持つ。「キリストの流した血と俺とは何の関係もないのかね。俺はルオーを見ていて、深い慰めを感じるだろう? この深い慰めを与えるこのキリストと俺とは無縁ではない、無縁ではないとしきりに感じてならないんだが……」と呟く。