integral:三浦綾子資料室

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ひつじが丘:良一/杉原良一(すぎはらりょういち)

良一/杉原良一(すぎはらりょういち)

 父の名は不明。母は伸子に女手一つで育てられる。京子の兄で竹山の大学時代の同級生。大学時代画家になりたいと気がつき、「いい絵をかかないうちは絶対に結婚しない」と宣言していたが、奈緒実と結婚することでいい絵がかけるのではないかと考えを変える。画才については評価が「絵を見ても、どこかわけのわからない魅力があるからな。朱と黒のつかい方が実にたくみだと思うよ」と褒める者と、「あいつの絵はめちゃくちゃなんだ。思いつきさ。それを自分でインスピレーションとか何とか言って天才ぶってね。ただの消化不良の絵だよ」と否定する者とに別れるが、後者の方が多い。竹山は良一の才能を認めているので、「きびしく、辛辣である」。

 北海毎日新聞社に新聞記者として勤務。学生時代は共産党員だったが、転向。以来、「いつも、俺は裏切り者だ、俺は裏切り者だと思うようになってしまった」が、このことを忘れるために酒と女にすがる。奈緒実との結婚生活でも「俺は甘えているんだ。奈緒実、甘えさせてくれ」と心中で叫ぶが奈緒実には伝わらない。

 「絵さえかければ、絵をかくためには女遊びをしても何をしてもかまわないと思っていた」が、喀血し、奈緒実の実家である牧師館で療養生活をしていたときにルオーのキリストをながめ続けるうちに、自分の画に疑問を持ち、自分とキリストとのかかわりを考え始める。初冬、ナナカマドの赤い実をみたことで半年ほど付き合ったものの、中絶手術が失敗して死亡したサトミのことを思い出し、「自分と知り合って幸福になった女は一人もいない」と思い、「自分の存在が人の喜びにならないということは淋し」いものだと思う。女性に対する態度は、輝子とわかれる際に、手厳しく非難され「今まであなたに捨てられた女の人たちの分まで、わたしが仇をとってあげるわ」という言葉通り、帰宅途中に凍死する。

 死後すぐに開かれた個展では、十字架のキリストを仰ぐ自画像がかなりの反響を呼ぶ。

塩鮭が好物。

(1)「幼な児のような、きれいな目」「みどり児のように澄んだ目」で「小学生よりもあどけなく、人なつっこ」いので奈緒実、輝子の心をとらえる。「よく通ったバリトン」で奈緒実の前で即興で歌った。しかし、よく観察すれば「少し肌が青い」ことから、耕介のように「終始伏目がちで、肌が青年らしくなく荒れていた」ことから「何か暗いもの」を感じ、愛子のように「どこか意志薄弱なタイプ」だと感じる。喀血し、奈緒実の実家で療養するうちに少し太り、絵をかくようになる。「発病前より一まわりも大きくなったような感じ」で、「耕介と二人で並んでいると、たしかに本当の親子のように体型が似てきた」。
 奈緒実は、良一が自分を見る目には「以前の子供のようなあどけいない目とはまたちがった、済んだ光」があるような気がする。竹山も、「人が変わったように、静かな澄んだものを感じさせる人間になっている」。また、耕介も愛子も良一に好意を持つようになる。

(2)京子が奈緒実とお茶を飲んでいるときは「百円札を四五枚、無造作にテーブルの上においた」り、竹山に京子をもらって欲しいと懇願する具合に妹思い。奈緒実には、学生時代は共産党員だったこと、先輩が捕まったときは「急にぼくは恐ろしくなったんだ。拷問にあうのは、恐ろしくて、さっさと逃げ出してしまった卑怯者なんだ」と説明。徳田球一が公職追放になったときは「あれだけでも、ぼくは戦争中を思い出して、ビクビクしている弱虫なんだ」と言う。「自分が転向した理由が、単に命が惜しいというという一事であったことをいつまでも恥じて」おり、自分が卑怯者だということを忘れさせてくれるのは女と酒だったため、輝子にも関心をよせ、関係を持つようになる。自らを「生活無能力者」と規定し、お茶を入れられないのはガス「栓をひねるとボッと青い火がつくでしょう? あれが、へんに不気味なんだもの」と言い、奈緒実から笑われる。「良一は自分で布団を上げ下げしたことはない。父のない家の男である良一は、必要以上に甘やかされて育った」からである。竹山は良一との関係を「何でつながっていた友人かわからない」「女の問題の後始末をしてきただけ」としながらも「良一という人間のでたらめさも、愛してきた」ように思うが、奈緒実の結婚について耕介たちから相談されたときには「女にはだらしがない。経済観念はゼロ、その上大酒飲みだ」とは言えない。妹である京子も「兄って女にだらしがない」と言われる。マルキストとして活動してきたので、母親に金の無心をすることはなかったが、輝子から送られた金で酒を飲んでいたことが奈緒実にばれ、奈緒実は家を出る。奈緒実の実家で喀血、実の母である伸子からは帰宅を拒否され、奈緒実の家で療養生活を送る。療養生活中にキリストの流した血の意味を考えるようになり、一枚の画を製作。奈緒実へのクリスマス・プレゼントとして用意したその画は良一の信仰告白であり、奈緒実を初めさまざまな人々の心を揺り動かすが、皮肉にも良一は死去。

(3)「なあ、竹山。キリストの流した血と俺とは何の関係もないのかね。俺はルオーを見ていて、深い慰めを感じるだろう? この深い慰めを与えるこのキリストと俺とは無縁ではない、無縁ではないとしきりに感じてならないんだが……」