integral:三浦綾子資料室

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氷点・続氷点:陽子/辻口陽子(つじぐちようこ)

陽子/辻口陽子(つじぐちようこ)

昭和21年6月(誕生日は同10月27日)~

『「氷点」を旅する』に収録されている「三浦綾子がつづるあらすじ」では、「陽子は、殺人犯の娘とは思えない程、頭もよく、妖精のような魅力を持つ、そして芯の強い娘であった」とある。

「朝日新聞」2014年6月28日の記事「小説「氷点」、原案は「風」 三浦綾子の創作ノート確認」では、「直美」という名前であったことが報じられた。

三井恵子中川光夫の不義の子・「澄子」として生を受けたものの、中川が心臓マヒでポックリと死んだことや、恵子の夫が復員したことから、育児院に預けられたが、辻口啓造夫妻の養女として引き取られる。
三歳にならない頃から、絵本の字が読めた。文武両道(数学がすき、ギリシャ語も独学で勉強)、明るくしっかり者で美しく成長した陽子は人の心をひきつける。なお、陽子という名は
夏枝の希望でつけられる設定だが、三浦の妹でわずか6歳で夭折した「陽子」にちなむことは有名。神楽小学校に入学。毎日スキーに行ったり、木登りをしたりする活発な少女。煮豆やたまご焼きが好物。

中学生の時、第十三回卒業生総代に選ばれる。

啓造は、高校生になった陽子が、「とても鋭い質問をする」ことや「ぜひ大学にやりたい」と社会科の教師沼田から言われているにもかかわらず、就職(国家公務員の初球を取って、営林局にでも勤めたい)を希望していることを辰子の口から知る。運動神経はより優れている。高校二年の冬には、ギリシャ語の勉強をしたり、好きな数学の勉強(ユークリッドの幾何学)をしたりしている。

(1)「目鼻立ちが整って」「きれいな眉」をしているが、啓造の目には、「犯人の佐石によく似た眉」をもったように見える。「何かがたえず燃えているような、それでいて人の心を吸い取るようなふかぶかとした」目を持っている。北原はこの目を見て陽子に捕らえられると共に「何ものかに精一杯向かっている張り詰めた美しさ」があり「命そのものが息づいていうような美しさ」があると思う。美しい娘へと成長した陽子は「夏枝と同じ背丈ほど」「豊かな髪を肩までたらして」「クレオパトラのように前髪を切って」いる外観をしていて、服装的にはグレーのスラックスにピンクのセーターがよく似合うと描写される。高校二年生の時は「体格がいいので、和服を着ると高校を卒業した娘に見えた」。夏枝は、「陽子が白いセーターの腕をかるくだくようにして」いるのが「なんとも小生意気な態度に見えて」一番嫌いなポーズだった。

(2)「人の悪意をも善意に受け取るふしぎなものが、生まれつき備わっているようであった」という性格の持ち主として『氷点』では描かれており、たとえば、小学校1年生の時、級友のことを聞かれ、長所ばかり紹介する陽子を高木は「素直」だと評する(陽子は自身を「きかん坊」だといい、理由に木登りをすることを上げる)。また、二三夫に石をぶつけられた時も、叱られたら困ると二三夫をかばう。この点がよりいっそう夏枝を悪く見えるように思わせるが果たしてそうか。

辰子は「打明けるということのない子」と陽子を指摘しているが、このことばが端的に示すように、北原の妹を恋人と誤解していたエピソードでは、北原からの手紙を読み返しもせずにすべて捨ててしまうような激しさをも持ち合わせている。

小学校4年の五月から、牛乳配達を始めるが、そんな陽子に対して、啓造は、「ただ素直なだけでなく、自立心が強いのが気にな」り、血の相違を感じる。正月になっても牛乳配達をやめない陽子に対して、啓造は「なかなか見所のある子だね。ねばり強い」と言うが、夏枝は「しぶとく思われて腹が立った」。

「人を悪く思うことができないのは、陽子の生来の性格だった」と記されるように、夏枝に答辞をすり替えられた時であっても、夏枝に対して「何も知らずに恨んだりしてはいけないわ」と思う。

ちなみに、いつも明るくしっかりしている陽子だが一人きりになるとテレビのスイッチを入れるのも不気味に感じるような普通の少女らしい一面も持ち合わせている。

(3)「わたしは石にかじりついても、ひねくれないわ。こんなことぐらいで人を恨んで、自分の心を汚したくないわ」「私の心は凍えてしまいました。陽子の氷点は、「お前は罪人の子だ」というところにあったのです」

 美瑛川で睡眠薬自殺を図ったが、助かる。以来微熱が続き、三学期は欠席が多い状態で高校二年をおえた。微熱と疲労感で部屋に引きこもってばかりで、好きだった勉強や読書さえせずに何もせずに過ごす。遺書に記した罪とゆるしについて、啓造は痛みを感じるとともに、陽子が「一点の悪も自分の中に見出したくない誇りに生きていた」ことを「少女らしい潔癖さ」だが、同時に「傲慢ともいえる潔癖である」と思う。

 乳児院を見たいと言い、「この一年は、実社会をよく見て、進むべき道を決める」と啓造に語る。啓造と夏枝から松崎由香子のことを聞いた時には、自身の出生について「わたしは、許し難い行為によって生み出された存在なのだ」と思い、「どぶの中でうまれたようなもの」だと徹に説明する。

 夏枝たちと茅ヶ崎へ旅行した際に、夏枝の父から、ジェラール・シャンドリの「一生を終えてのちに残るのは、われわれが集めたものではなくて、われわれが与えたものである」という言葉を教わり、「何か一条の光が胸にさしこんだような気がします」と啓造に書き送る。旅行から帰った後、進学を決める。

 啓造にとっては、陽子は娘というより異性である。「まろやかな肩持つ汝と二人いて何に苦しき汝は吾娘なるに」と詠み、徹との結婚を望まぬ気持の底に「鬱屈した思い」を感じる。

 陽子が通っていた中学校は神楽中学である(「夕あかね」)。また、入学した高校の名前も、『氷点』本文中には出てこなかった。が、「新芽」の章で、北海道大学教養学部文類に入学した陽子は、級友大野に「君が文類に入学したと聞いたからさ、西校の連中で歓迎会をしようって、話が出てるんだ」と言われる。この言葉で、陽子が徹と同じ旭川西高等学校に進学したことが分かる。高校時代の陽子について、大野は「そうさ、陽子さんは、つまりさ、ぼくらのアイドルだったろう。誰だってそう思うよ」と語り、陽子と接近したことを「何だか、夢みたいだな」という。「つゆ草」の章では、陽子と親友になりたがる友だちがたくさんいたこと、同級生ばかりでなく下級生や上級生からも手紙をもらっていたことが記されているが、陽子は友人を家に入れることが苦痛で親しい友を作ることを避けた。「夏枝は陽子の友人に快く応対する人間でなかった」からである。

 陽子の下宿は、相沢順子の世話で決まる。「下宿先の家の妻と、順子の母が従姉妹の関係で陽子を置いてくれることになったのである」。下宿は「クラーク会館のすぐ横を通って、一丁程東」で「通りに沿った狭い庭に、丈高いライラックやアララギなどを植えこんだ、古い木造二階建の静かなたたずまいの家である」。

 大学では、美術部「黒百合会」に所属。黒百合会は伝統のある美術サークルで、北大構内に多い黒百合からその名をとっている。黒百合会には、啓造も所属していた。夏休みには、育児院の手伝いをした。

 円山の産院で生まれたことが、三井弥吉の手紙の中に記されている。

  何でも好きだが、「特にかぼちゃと、じゃがいもが好き」「チョコレートも好き」と達哉に言っている。

(1)「もの憂げ」な様子。「黒髪を枕に垂らし、長いまつ毛」を閉じてねている。徹によると、「なあに、おにいさん」という声は、「驚くほど三井恵子に似ていた」。北原は再会した陽子について「ああ、以前の陽子さんには、照り返すような、強い美しさがあったよ。しかし、今はどこか、憂愁が漂っていて、大人になった感じだよ」と徹に語り、「会わなければよかったとも思うよ」と告げる。異父兄の潔は「うちのお袋さん実によく似ていますね」「似すぎていますよ」と徹に語る。また異父弟の達哉も「母とそっくりの娘さん」と評する。潔は後日陽子に、恵子と陽子が「実によく似ている」と言い、高木と共通の知人であることが「どうももやもやと霧がかかったような感じ」だと語る。

 北原から見ると、「かっきりした」二重まぶたや、「伸びきった肢体」が美しい。

 辰子によると「目が大きい」。

(2)徹によると、恵子のことを許せない陽子は「きびしい」が、陽子にしてみれば「若い者は潔癖な怒りを知らなければ、いけないと思う」。

 料理好き。陽子は順子に「おだしでも、手をぬいたらすぐにわかってしまうでしょう。そのきびしさが好きよ」と言う。

 北原は陽子について「陽子は近ごろの若い女性とはどこかちがう。ドライブよりも歩くことが好きで、ボウリングよりも読書を好む。ゴーゴーよりも辰子の日本舞踊にひかれ、喫茶店で話合うことよりも、芝生で語り合う方が好きだという」と思う。

 達哉は自分で門限を決め、一度も母に起こされたことのない陽子を「きびしい」と評する。が、陽子にしてみれば、夏枝が実の母ではなかったため、「何事でも夏枝に言われぬうちに先立ってする癖がついていた」ことを思う。陽子の「きびしい」性格については陽子自身も「そうよ。わたしはきびしいのよ。お友だちだからって、甘ったれるのはきらいなの。お友だちは、お互いをみがくために存在していると思うの」と達哉に語る。「花しょうぶ」の章では、小樽の母をゆるせない地震について「わたしって、きついのね」と徹に語っている。

 順子は陽子について「陽子さんって、人のうわさ話とか、悪口とか一切しないでしょう。わたし、そんな女のお友だちってはじめてよ」と啓造と夏枝に言う。

(3)「でもね、わたし自殺しようとしたからいえると思うけれど、真実に生きることよりは、死ぬことのほうが、やさしいわ」「そしてね、考えたの。生れて来て悪かった人間なら、生れて来てよかったとみんなにいわれる人間になりたいって」(花しょうぶ)