integral:三浦綾子資料室

作家・三浦綾子に関する研究をするブログ。※予告なしに記事の修正削除およびURLの変更を行います。

氷点・続氷点:北原/北原邦夫(きたはらくにお)

北原邦夫/(きたはらくにお)

『「氷点」を旅する』に収録されている「三浦綾子がつづるあらすじ」には、「夏枝は、村井に似通う北原に魅かれ、陽子と北原の仲を裂こうとする」とある。

のだますみ氏のブログ「月光ノート」2015年3月4日付「わたしは感動を描きたい」の本文中に「ヒロイン陽子と恋に落ちる青年 北原のモデルとなった三浦ご夫妻のご友人Oさん」とある。詳細不明。

北海道大学科学専攻。徹とは寮で同室。徹と同じ年だが、徹は高校受験時に一年浪人しているので、学年では北原の方がひとつ上となる。大学院への進学を希望している。

音楽がすき。剣道三段。千島生まれで、四つの時に千島から引揚げた。母親がいない(千島で永眠)。滝川で肥料工場を経営している父親、妹(みちこ)がいる。毎年斜里岳に登って千島を見て母を偲ぶ北原を、陽子は「急に近い存在に思われた」。また、早くに母を亡くしているので、亡き母の神聖が犯されるような、夫がある女性がほかの男にひかれる話は例え映画や小説であっても嫌っている。夏枝には母性的なものを求めているので、恋人同士に見られたいと思っている夏枝をくだらないと感じる。陽子は「(北原の)どこにひかれているのか陽子自身もよくはわからない」。

誕生日やおまつりのときは、父が手作りのカレーを作ってくれたので、北原にとってカレーライスはご馳走である。

(1)「中肉中背の色の浅黒い青年」と描写されるが、体格がいいのか、「がっしりした肩」と「はちきれそうみ盛り上がったもも」を持っているとも描写されている。「眉の濃い、どこか、さわやかなかんじの青年」だが、陽子が当初北原に対して「清々しいがいくぶん甘さのある印象」を持っていたと書かれているように、北原は青年特有のはにかみをしばしば浮かべる。夏枝と並んで歩いた際には「二十三歳の北原は、二十七、八歳に見える」から、夏枝と並ぶとよそ目には恋人と見えると描写される。

(2)徹から見た北原は「頭もいいし、性格も明るく、さっぱりしていた。思いやりもあり、勇気もある人間に思えた」と叙述される。北原の性格として指摘できるのは率直さと手厳しさである。北原は、自分のことを名前で呼んでほしいという夏枝に対しても、啓造、村井、高木の三人が夏枝に振り回されたのとは異なって、率直だが手厳しい非難をする。机の上に雑然と本を積むなど、結構おおざっぱなところもある。

(3)「いや、それを希望しているわけじゃありませんよ、ぼくだって。だけど、お互いに自由ですからね。好きな人ができたら、いってください。ぼくのねがうのは、毎日を誠実に生きていきたいということなんです。その誠実な生活の結果が別れになったとしても、これは仕方がないことでしょうからね」

※陽子の幸福を祈り、影ながらささえていこうとする徹とは異なり、北原は文字通り「行為者」として陽子に己の持っているものを捧げて愛そうとするである。これは『続・氷点』では自らの足を切断する危険を犯して陽子を助ける態度に最も表れているだろう。また、『氷点』の結末では高木に直談判して陽子の出生の秘密を探る。この姿は啓造、夏枝、徹の3人が陽子の出生の秘密を探ろうとはせずに陽子を佐石の娘だと思い込んで、陽子への愛憎を募らせていたのとは異なる。また、北原は愛を誓わない人物として設定されている。聖書は「誓ってはいけない」という主旨の言葉があるが、これを元に造形されたのが北原という人間ではなかろうか。

※「徹より一年上」という記述が意味しているところがわかりにくいが、2001/11/16に三浦綾子記念文学館に所蔵されている三浦綾子の手による『氷点』の登場人物設定表によると北原と徹は同じ年だと判明。

※のだますみ氏ブログ「月光ノート」2015年3月4日付「わたしは感動を描きたい」
http://a-gekko.cocolog-nifty.com/blog/2015/03/post-b25b.html

◎『続氷点』:北原/北原邦夫

北海道大学理学部ドクターコースに在籍。達哉の車で右足を轢かれ、膝窩動脈が切れていると診断を受け、右足を切断する。切断手術後、二カ月で退院し、登別温泉の病院で術後の静養をする。

(1)順子に徹のことを「清潔な感じね」と言われた陽子は、「ありがとう。北原さんも清潔よ」と返す。

(2)順子によると、「少しおとなすぎるわ。友だちというより、小父さんみたい」。達哉は陽子と一緒に歩いていた北原を見て「何だか、虫が好かないな」と言うが、陽子は無謀運転の自動車が突っ込んできた時、北原が助けてくれたことを思い出して「立派な方よ、あの方は」と言う。

啓造は、北原のことを「もっと思慮深い青年」だと思っていたのに、徹と陽子の血のつながりがないことを順子にもらしたことを不愉快に思う。

陽子に、自分や徹のことをどう思うかと聞いた北原は

北原は陽子に対する思いを次のように説明する。「陽子さん、ぼくは多分、もうあなたに対するような思いは、一生誰にも抱けないかも知れない。ショパンは音楽史上に残るような恋を、三度もしましたよね。しかもその三度目は、あのジョルジュ・サンドとの、苦しい大恋愛だった。ショパンというのは、やはり凄くパッショネートな人間だったんだなあ。しかしぼくは平凡な男だ。一度っきりだと思うな。こんなことは」そして「いや、ぼくはそうそうへこたれませんよ。何せ、大変な自信家ですからね」と語り、徹がいなければ陽子は自分を選んだと言い、自身を「選外佳作」と語る。

(3)「陽子さん。ぼくの足が一本になった。そのことにあなたが責任を感じているとしたら、それはお門ちがいですよ。ぼくはぼく自身の気持で、あなたを追って行ったにすぎないんです。そして、自分の不注意で、足をすべらしてしまったんですからね。達哉君のことでも、責任をかんじているのでしょうけれどね。そんな必要はありませんよ。あなたは辻口のところにお帰りなさい」(追跡)