integral:三浦綾子資料室

作家・三浦綾子に関する研究をするブログ。※予告なしに記事の修正削除およびURLの変更を行います。

ジンギスカン

北海道の郷土料理。「ジンギス汗鍋」「ジンギス汗料理」の略。
「ジンギス汗料理」は、『大辞泉』(増補・新装版)によると、以下のように記される。

羊肉の薄切りと野菜をたれにつけ、ジンギス汗鍋や鉄板で焼いて食べる料理。本来は野外料理で、チンギス=ハンが、陣中で軍勢の士気を高めるために造らせたという伝説がある。ジンギス汗鍋。【季 冬】

※『氷点』では「ジンギスカン」が、『続氷点』では「義経鍋」が高砂台にあるレストハウスで提供されていた所から、同一のものだと思い込んでいたが、その違いを図書館に問い合わせたところ、2013年10月2日に以下の回答が得られた。

「義経鍋」についてご回答させていただきます。
義経鍋と呼ばれる料理は、以下のとおり2種類あるようです。
1.青森県三八上北地方に伝わる馬肉料理の一種
2.奈良県に伝わる鍋料理の一種

また、参考文献として以下の2冊をご教授いただいた。

1については、「青森県風土記-美しいふるさと/東京堂出版」、2については「日本の味探求辞典/東京堂出版」に記載がございます。(
 

三浦綾子と旭川 inソンシアの家」内の掲示板(おしゃべりルーム)の書き込みでは、以下が確認できた。(※要約)

・高砂台のレストハウスが営業してた時 「義経鍋」というのがあり、今のジンギスカンのようだった。
・「義経鍋」は北海道をイメージするような形の平べったい鉄製の鍋である。
・鍋の一部に水(お湯)を入れて 野菜をゆで、肉は焼くが、この肉がおそらく「ジンギスカン」(羊肉)
・そのレストハウスを経営していたのは 旭川市内にある酒造会社。
・「義経鍋」が三浦綾子記念文学館に寄贈され、どこかで眠ってるはず。
 
circled.2013/10/2

岡田哲編『日本の味探求事典』(東京堂出版、1996.1)によると以下の通り記されているのを、2013.10.8確認。

じんぎすかん(成吉思汗)(北海道) 中国地方の料理・烤羊肉(原文ルビ・カオヤンロー)と加熱調理方式が似ている。モンゴル軍の兜のような鉄製のジンギスカン鍋で、羊肉の付け焼きをする。英雄のジンギスカンは、一三世紀のモンゴル共和国の始祖である。この地方では主食に羊肉を焼くので、このような勇者の名が付けられたのだろう。昭和の初め頃に見られるが、第二次大戦後に、滝川市の道立種羊場が緬羊飼育を奨励し、北海道の名物料理となる。脂肪の多い羊肉を、ジンギスカン鍋で焼くと、余分の油が落ちておいしくなる。タマネギ・ピーマン・モヤシ・ニンジン・ナス・ジャガイモを共に焼いて、好みのタレを付ける。タレはかなり凝ったものがあり、醤油・砂糖・ニンニク・唐辛子・リンゴ・ニンジン・タマネギを組み合わせ、羊肉の臭いを消して食べやすくしている。焼いてからタレを付けるものと、タレに漬け込んだ羊肉を焼くものと二種類ある。羊を表す英語は、随分沢山ある。羊はsheep 牡羊はram 牝羊はewe 仔羊はlambという。食材としては、羊肉はmutton 仔羊の肉はlambである。レストランに、羊肉(ラム ram)とあれば間違いである。<エゾ鹿のジンギスカン>もよい。(p159)

北海道立図書館にも問い合わせ、以下の回答をいただいた。
 

【回答事項】
①ジンギスカン(について
●辞典類の「ジンギスカン」の記述(「義経鍋」を別名とするような記述は見られず)
・『広辞苑 [1] あ-そ 第6版』
→p1440「成吉思汗料理」:「溝のついた兜形の鉄鍋で羊肉の薄切りを付け焼きにして食べる料理。成吉思汗鍋とも言う。」
・『日本国語大辞典 第7巻 しゅんふ-せりお 第2版』
→p561「成吉思汗鍋」:「ジンギスカン焼で肉をのせて焼くための鉄製の特殊な鍋。中央部が高いかぶと状で、火を通す穴がいくつもあり肉の油が直接火に落ちないように工夫されている。転じてジンギスカン焼のこと。」
→p561「成吉思汗焼」:「(昔、ジンギスカンが戦いの際に軍勢を鼓舞するために野外で羊肉をかぶとの上であぶり焼いて兵士に食べさせたという伝説から)あらかじめたれに漬け込んだ羊肉や野菜を鉄板・金網・鍋などで焼きながら食べる料理。ジンギスカン。ジンギスカン鍋。ジンギスカン料理。」
→p561「成吉思汗料理」:「ジンギスカン焼」に同じ。
●ジンギスカンに関する資料は沢山ありますが、過去、当館でテーマ展を行った際の展示目録(資料リストあり)を当館HPに掲載しておりますので、紹介させていただきます。
・「ジンギスカン」 http://www.library.pref.hokkaido.jp/web/public/qulnh000000006zl-att/qulnh00000000860.pdf
・「羊と北海道の140年」 http://www.library.pref.hokkaido.jp/web/public/qulnh000000006zl-att/qulnh000000035lo.pdf

②義経鍋について
※『続氷点』の「義経鍋」の記述について、掲載箇所を確認できませんでした。ご教示いただければ幸いです。
●調査済み資料の『青森県風土記』、『日本の味探究辞典』は当館所蔵がなく、記述が確認できませんでした。また、当館所蔵の百科事典、国語辞典、民俗学、料理関係資料では「義経鍋」に関する記述を確認できませんでした。
●インターネットで「義経鍋」の情報を検索しました。
・「青森県庁ホームページ」>「青森のうまいものたち」>「あおもりの旬 2008年4月号「馬肉」」 http://www.umai-aomori.jp/know/syun/200804/baniku.phtml
→「義経鍋」の解説あり:「鍋と焼肉を一緒に楽しむことができる鍋。名前の由来は、義経が平泉に落ちのびる途中、弁慶が鴨を捕らえ、かぶとを鍋の変わりに使ったことからと言われています。頭の部分で水炊き、つばの部分で焼肉が出来ます。」
●三浦綾子の別の著作に「義経鍋」の記述がありました。
・『丘の上の邂逅』(小学館 2012.4)に「義経鍋の思い出」(p158-161)というエッセイがあり、自著『果て遠き丘』の中に取り入れた義経鍋の記述を引用。「ニ人は畳にすわった義経鍋をつつきながら花火を見ている。(中略)章子は皿の上からホタテ貝や鮭の切り身を鍋の上にのせる。モヤシやネギは、真ん中の出し汁の中に入れる。義経鍋は、真ん中にものを煮るへこみがあり、その周囲は広い鍔になっているのだ。」

③ジンギスカンと義経鍋の違い
2つを比較できるような資料は確認できませんでした。ただ、①②からそれぞれの料理の特徴をまとめると以下のようになります。
●ジンギスカン(料理)は、
・材料は羊肉と野菜類
・「ジンギスカン鍋」や鉄板で焼いて食べる料理
・明治以降さかんになった牧羊の廃羊利用法として考案された(中国料理「カオヤンロウ」に影響を受けたとも言われる)
●義経鍋は、
・材料は、山にいる動物(猪、鴨など)と野菜。青森の場合は馬肉
・水炊きと焼き物が同時に出来る「義経鍋」で調理する
・義経伝説が料理の由来


以上、回答します。(2013.10.08)

そこで、ご教授いただいた『丘の上の邂逅』を確認したところ、さらに「義経鍋」が「北海道鍋」の前身であることが確認できた。p187の解題には以下の通り記されていた。

・義経鍋は義経が大陸にわたってジンギスカンになったという伝説から、日本の汁鍋とジンギスカン鍋を組み合わせた形の鍋。中央に水炊き用の鍋があり、周囲に庇状になった焼肉用鉄板がある。これから発した北海道鍋は北海道の形をしている。

 

同じ本に収録されているエッセイ「丘の上の邂逅」に高砂台にあったレストハウスのことが出てくるとともに、義経鍋についての記述もある。



この義経鍋は、誰にごちそうしても必ず喜ばれる料理で、マトン、鮭、貝、鶏肉、えび、しゅん菊、かぼちゃ、もやし、長ねぎなどを、鉄鍋の上で焼いたり、まん中のスープ鍋で煮たりしながら、食べる料理なのだ。つまり、煮ても焼いてもいいのだ。

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『氷点』:
北原が初めて辻口家を訪れた際、夏枝が北原の送別会を提案し、高砂台にあるレストハウスでジンギスカン鍋を食べて送別会を行う。